高い安全性の確保とスピードの追求は、第2次世界大戦後から現在まで、一貫してメルセデス・ベンツのブランドを支えてきた2つのコンセプトです。いつの時代も、ブランドが新たに名声を築いてゆく過程には、ひとつの強い意志があります。戦後のメルセデス・ベンツにあっては、それは安全性とスピードの両立であり、そのターニングポイントには必ず名車が登場しています。
そんな戦後のメルセデス・ベンツを象徴するクルマが1953年発表の180シリーズでした。180シリーズは、シックな印象の4ドアセダンながら、メルセデスのクルマとして初めて独立フェンダーを廃止した、デザイン的なターニングポイントに位置するものでもありました。しかもそのデザインは、世界初の衝撃吸収構造の必然から生まれたもので、まさに安全性のための機能追求の結果なのです。現在まで続くメルセデスのイメージは、180シリーズから始まったと言えるかもしれません。
そしてもう1台、スポーツカーデザインのターニングポイントとなった名車が、奇しくも前年の1952年にデビューしていました。
“300SL”――それはおそらく、メルセデス・ベンツのクラシックとして、ファンにもっともよく知られた名前でしょう。
このクルマを、少数生産の伝説のスポーツカーとして記憶されている方も多いと思います。SLとはドイツ語でSport Leicht=軽量スポーツの意味です。
1952年5月、イタリア伝統の公道レース、ミッレ・ミリアに初めて姿を現した300SLは、ガルウイング・ドアを採用した先進的な空力デザインと高性能で、たちまち世界中の注目を集めました。レースの成績も素晴らしく、年内にル・マン24時間レースを含む、実に4つのスポーツカーレースで勝利をあげます。そして、今日よく知られる市販モデルが発表されたのは2年後、1954年のことでした。レーシングモデル同様のガルウイング・ドアを備え、優雅でスポーティなエクステリアの300SLクーペは、メカニズムもレーシングモデルとほとんど変わるところがありませんでした。 |

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1952年発表のレースカー、メルセデス“300SL” 300SLは当時の300系のパーツを使って製作された。エンジンは300S用の6気筒2996ccがベースで最高出力は171ps(1952年) |

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1954年発表の市販モデル、メルセデス“300SLクーペ” 市販された300SLクーペはエレガントにフェイスリフトされた。車重は増えたがエンジンもキャブレターから燃料噴射装置に変更され最高出力は215psにアップしている(1954年) |

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ガルウイング・ドア 300SLは頑丈な鋼管スペースフレーム構造。それゆえドア開口部は著しく制限され、ガルウイング・ドアが採用された |
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