Mercedes Story
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自動車の生まれた日──ダイムラーとベンツ
ところで、興味深いのは二人が共に中流階級の出で、さらに成長した環境もよく似ているということです。最新の機械技術にあこがれて同じ道を選んだ二人は、技術革新の時代の空気を胸いっぱいに吸いこんだ、今でいうところのベンチャー企業家だったのでしょう。ちなみに、この19世紀末から20世紀初頭には、1876年にベルの電話機、1879年にエジソンの白熱電球、1903年にライト兄弟による飛行機と、20世紀文明の主幹となったほとんどの技術が登場しています。そんな時代の流れを考えると、自動車の発明もまた時代の必然だったといえるのかもしれません。

そうして、ダイムラーはシュツットガルト、ベンツはマンハイムを拠点に自動車の開発を進めましたが、特許を手にしたのは三輪自動車“モトールヴァーゲン”を先に世に送り出したベンツのほうでした。ダイムラーはといえば、その前年にガソリン原動機の特許を取得。ほんの少し遅れて世界初の四輪自動車を完成させたものの、動力をそなえた乗り物という特許はすでにベンツのものになっていました。

とはいえ、生まれたばかりの自動車は、決して最初から大喝采をもって世間に迎えられたわけではありませんでした。なぜなら、ベンツの三輪自動車は水冷単気筒の984ccで最高出力は0.89ps、かたやダイムラーの四輪自動車は462ccで最高出力は1.1ps。最高速度にしても20km/h前後と、現在のメルセデスSLクラスが楽に200km/h以上の高速で走れることを思えば、かなりひかえめな存在でした。ある時、馬車型をしたベンツ自動車のデモンストレーションを見た農民が「これならもう馬は要らない」と感心したというエピソードが残されていますが、その通り、世界が初めて手にした自動車はまさに馬車代わりだったのです。

ですからダイムラーもベンツも、この性能にはまったくあきたらず、たえまない改良を加えながらモデルチェンジを繰り返していきました。そして彼らは、数年後にはレースが行えるまでに高性能な工業製品へと、自動車をきわめて短い時間で生まれ変わらせてしまいます。

ダイムラーとベンツが天才といわれるゆえんは、それぞれがまったく別個に、今日まで115年以上も続く“自動車”を生みだしたというだけではなく、移動や輸送の主役になるまでに育てあげた高い技術と卓見、さらにたゆまぬ努力にあります。そして、時代のカリスマ二人の技術力と独創性とは、やがて軌を一にして、ついにはダイムラー・ベンツ社の誕生につながるのです。

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ダイムラーのモトキャリッジ(最初の四輪自動車)

ダイムラーのモトキャリッジ
(最初の四輪自動車)
ベンツ・ヴィクトリア号に乗るカール・ベンツ夫妻

ベンツ・ヴィクトリア号に乗るカール・ベンツ夫妻



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